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終着駅465


第465章

翌日、二人は遅めの朝食をとりながら、確認事項のチェックに夢中だった。

「十月に家が出来るんなら、お互い、このままの方が正解だね」有紀は、今の賃貸の部屋を引き払って、神楽坂の方に引っ越そうと言っていたアイディアを取り消した。

「そうだよね、半年しかないわけだし、無駄になるよ」

「会社には、いつから行くつもりだっけ?」

「身体の様子次第だけど、一か月くらいしたら、ぼちぼち行こうかなって・・・・・・」

「そうなると、姉さんが、子供の送り迎えで苦労するのは四か月ちょっとだね」

「そう。それに、初めの二か月くらいは、出勤短縮とフレックスタイムで出社しようかと思っているから、それほど苦痛じゃないと思うの」

「そんな規則あるの?」

「ないけど、社員の健康管理が社長の役目だって、いつも言っているから、三上社長が全面的に支持してくれるはずだから」

「そういえば、姉さん、会社の方には顔出さなくても良いの?」

「もう少し後でも良いかなって・・・・・・。折角、有紀も休みなんだから、来週で充分。それよりも、竹村の墓参りに行こうかなって思っているんだけど、つきあってくれる?」

二人はぐずぐずと出かける用意をしていた。有紀も、竹村家からの恩恵少なからず受けているのだから、異存はなかった。

小平の竹村家の墓は、考えていた以上に清掃が行き届いていた。金子が、管理費が高めだけど、行き届いているようだからと、勧めた理由がよくわかった。

「水汲んでくるよ」

私は、、有紀の後ろ姿を見送りながら、性欲を憶えた。

竹村夫婦が眠る墓の前で、性欲を感じる唐突さに、私はたじろいだ。

しかし、噴出したマグマの流れはおさまる気配がなかった。

抱えている花の花弁の一つ一つが、有紀のバギナに見えてきた。

私は、その幻影をふりはらうように、遠景に目を向けたが、引きこまれるように、花弁に釘付けになった。

「どうしたの、花を睨みつめて?」有紀の声で、私は我に返った。

「あぁ、ふと、この花弁、有紀のアソコに似ている……そう思ったら、口の中に入れて、しゃぶってみたくなったの……」

「墓前なのに?」

「墓前だからかな?」

「どういう心理だろう?」

「私は、こんなに元気になりましたから、安心してお休みくださいね、あなた。そんな風に知らせたい気持ちからかな?」

「性欲が、健康のあかし?」

「そう、あれって、気持ちが充実して、体調の良い時が最高に感じるわけだから、素敵な鬼籍の人達への伝達手段じゃないかなって……」

「その上、いま、私が愛しているのは、男じゃないから、あなた、安心してね。そういうメッセージにもなる……」

「それもあるね」私は、手にしていた花を供え終わると、有紀に迫った。

有紀は、一瞬たじろいだが、私の腕に誘導されるまま、墓石の裏側に歩を進めた。
つづく

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終着駅464


第464章

部屋に戻ったのは、12時近かった。有紀は、話の内容に関わらず、ご機嫌だった。

「もう、あの人のことは、ねえさんにお任せするよ。私も、死ぬような思いをすれば、変身出来るんだろうけどね、あいにく、病気になりそうもないしな・・・・・・」

「やめときなよ、切なくなるよ」

「そんなに切ないものなの?」

「そうね、絶望と希望が、行ったり来たりしてたね。どうして、運命が、私を選んだのか、腹が立って、点滴の管を引きちぎってやりたい衝動を抑えるのが大変だったからね」

「知らなかったけど、そういう時期あったのか。姉さんは、淡々と、治療を受けつけていたのかと思っていたけど・・・・・・」

「そう云う姿を誰にも見せたくないから、面会を拒否していたわけ?」有紀は恐るおそる尋ねた。

「泣くしか、解決法がないなんて、許せないものよ。
誰が悪い?自分が悪い、竹村が悪い、DNAが悪い、その他諸々のすべてが悪い、憎悪の連鎖。その間に、切なさが、どっしりと座り込んでいるんだから、肉体的にも、精神的にも、ムカムカの穴に嵌って抜け出せずにもがくんだから、最悪だよ」

「想像もしていなかった。そんなの聞いたら、病気にはならない方がよさそうだね。私だったら、先ず姉さんを、その苦しみの中に引き摺り込みそう。そして、どこまで自分が醜くなれるか、試すようなことになりそう」

「そう、だから、アンタは元気で長生きが似合っているのよ」

「元気で長生き。その言葉、嫌な響きだね。人間の業が凝縮されている感じ。やっぱり、佳人薄命の方が響きがいいね」

「潔しだね。私は、生きながらえてやるよ。一度、死ぬ思いさせられたんだから。それに、私がいなければ困る人間を抱えちゃったんだから、開き直らないと・・・・・・」

「本当に、姉さん、そう思うの?」有紀が、不安そうな表情で尋ねてきた。

「こういう女は怖い?」

「少し」有紀は、恐々答えていた。

「大丈夫だよ。そう云う強い女になりたいなって、思っているだけだけよ。
ただね、今までのように、他者に合わせて生きるのは、やめるようにす努めるつもり。特別、逆らうわけじゃないけど、無理に合わせない、そう思うようになっているかな・・・・・・」

「だんだんと、姉さんが、ワタシ化しているね」

「無理だよ。逆立ちしても、有紀のジコチューには負けます。と同時に、アンタが生まれながらに備えている人情体質も真似できないからね・・・・・・」

「えっ!私って、人情味豊かなの?」

「そうだよ。その人間の資質とか感受性とかは、後天性は期待できないからね。親切ブルことは出来ても、心底自然に出てこないのわかる。アンタのは、天然で、そうなるのだから凄いの。正真正銘の人情なんだよ」

「そうかな。人情味豊かも、元気で長生きと似た語感だけどね・・・・・・」

「大丈夫だよ。有紀の人情味は寅さんのとは違うから、安心して」私は思わず微笑んだ。

「なら、良いことにするか」有紀もつられるように微笑んだ。

「案外、有紀の方が母さん達の面倒見る危険があると思っているくらいだから・・・・・・」

「まさか、そんなことはあり得ないから。やめよう、この話」

有紀は、おぞましい予見を振り払うように立ちあがった。
つづく

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終着駅463


第463章

入院前に、打ち合わせしたイメージ通りのパースの家だった。

システムキッチンやトイレタリー、内装材などについては、後日、改めて確認することになった。

金子弁護士は、次の来客があると云うことだったので、私たちは、早々に事務所を出た。

「どこかで、食べて帰ろうか」女忍者のような出で立ちの有紀が、目深にかぶった黒いキャップの鍔を持ちあげながら話した。

「そうだね、これから作るのも面倒だからね。前に、金子さんにご馳走になったお店、行ってみようか?」

「近いの?」

「あの無人交番のところを右に曲がったところにあるはずよ。創作和食のお店だから、何が出てくるかは、お任せの店だけど……」

「面白そうね、そこにしよう」

あっさり話はまとまり、私たちは、その店に通じる地下への階段を下りた。

生憎、テーブル、カウンター席は満員だった。フロアーマネージャーらしき人物が、個室料金5千円がチャージされる和室は空いていると告げた。

私は、迷わずに了解した。通された部屋は、6畳程度の大きさだったが、茶室のような雰囲気で、創作和食の店としての趣を充分に出していた。

料理を選ぶ必要がないのも、たまには良かった。懐石料理の楽しみの一種だった。

自分の好みで、料理を注文してしまうと、案外同じようなものを、食べる羽目になる。結局は、自分のレパートリーの自縄自縛のようなものだった。

「何が出てくるか、こういうのって、結構ワクワクだね」有紀は、ビールを美味しそうに喉を鳴らして飲みながら話した。

「私も、そんな風に考えていたの。お任せというか、お仕着せなんだけど、時々、こういう食べ方も良いのかなって・・・・・・」

前菜が運ばれてきた。小鉢の中身は山菜なのだが、あまり口にした事がない味がした。

「この山菜の味わかる?」

「ううん。でも、ミスマッチのようで、変わった感覚の味だよね」

「でも、美味しい。家の件だけどね、部屋数が、未だ引っかかるんだけど・・・・・・」

「判っているよ。お母さんたちが住んでも充分なスペースがあると云う心配でしょう」

「あの人は、必ず、そのような暗示と、とらえると思うけどね・・・・・・」

「良いわよ、思うのは自由だから・・・・・・」

「自由ってだけで済むなら、私だって心配なんてしないよ。姉さん、母さんに、それが通用すると思っているの?」

「思っているもいないも、そんな事、言わせるつもりはないから、大丈夫よ。竹村の家なんだから、母さんに関係ないって、釘を刺すよ」

「そんなこと言ったら、あの人は逆上しちゃうよ」

「良いのよ。その時は、恨まれても、私が言うから、任せておいて」

「抗がん剤で人格も変わったの?」

「馬鹿ね、そんなことありえないでしょう。ただね、母さんに振り回されるなんて、馬鹿げていたのよ。
もしかすると死ぬのかも、そんな風に考えたとき、母さんの言動なんて、へいっちゃらな事だと思うようになったの。
我々が、彼女につきあい過ぎたために、彼女にも、私たちにも、習慣がついただけなんじゃないかって・・・・・・」

「たしかに、そうかもしれないけど、父さん含めた三人には共通理解があるとしても、肝心なご本人が理解しなければ、厄介じゃないのかな?」

そんな話に明け暮れている間に、懐石料理は次々と運ばれた。そして、私たちは、言葉の合間に箸を動かし、口を休めなかった。
つづく

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終着駅462


第462章

有紀と私、そして田沢君のお母さんは、三人三様の明るさで、挨拶を交わし、田沢家を後にした。

「一件落着だね」有紀は、タクシーに乗り込むと、シートに座りかけながら口を切った。

「ありがとう。アンタの押しの強さに助けられたよ」

「あれは、押しの強さとは言わないわよ。チャンスを果敢に捉えただけよ」

「そうだけど、私には出来なかったから……」

「当事者には言い難い話だからね。あれで良いわけよ。彼女も望んでいた事なのだから……」

「本気で、子供を育てるのが好きなのね」

「そうだと思うよ。あれは、天賦の才だね。彼女は、育児に心が奪われることで、自分のアリバイ証明が出来る人なんだと思う。育児を通じて、自分の自信が高まり、その他のことにも、アドレナリンが放出される、そう云うタイプの女性なんだと思うよ」

「勝手に決めつけるのね。でも、それが、真実である可能性は、相当の確立なのも事実だからね」

「八方丸くおさまったのは良いけど、姉さんの朝晩の送り迎え、かなり大変そうだけど、大丈夫かな?」

有紀は、私が最も不安に思っている事を、軽く口に出した。

「そうね、正直、辛くなりそうな予感はあるかな」

「だよね。朝晩はラッシュと重なるはずだから、タクシーを使うにしても、時間は大きなロスだから……」

「片道40分、会社までも40分。80分の早起きだね」

「帰りも同じことが起きるわけだから、160分間のロスか……」

よくよく考えてみると、一日当り、3時間近いロスが生まれる。

「漠然とだけど、その辺は大きな悩みよね」

「いや、もう具体的な問題でしょう。なにか、良い手はないのかしら?」

「まさか、そのためにマンションの買い替えも馬鹿らしいからね。でも、吉祥寺からなら、都心を通らないから、15分程度で行けるでしょう。そこから、普通に電車で会社に行けば、それ程の負担ではなくなるから……」

「あっ、そうか。年内には吉祥寺の家が出来上がるかもね」

「そうだ、家のこと、金子さんに任せっきりだったんだっけ……。チョッと電話入れておくわ」私は、慌てて、金子弁護士に電話を入れた。

「ええ、お陰さまで、無事帰還しました」

…………。

「えっ、10月に竣工予定ですか?」

…………。

「意外に、あっさり壊れて、あっさり建つものだと思って、吃驚しちゃいました」

…………。

「そうですね。今日、明日なら、有紀も一緒ですので、話が早いと思うんですけど……」

…………。

有紀が、話の内容を理解したらしく、オーケーサインを送ってきた。

「ええ、それでは、事務所の方に夜の七時に伺うようにいたします」

…………。

「いえ、ご足労なんて、とんでもない。そちらに、図面や色んなものがあるわけですから……。ええ、それでは、七時に」
つづく

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終着駅461


第461章

“竹村ゆき”を胸に抱きしめた。

瞬間的に、忘れかけていた、乳房のはりを覚えた。しかしと、一瞬動きかけた手を戻した。

「まだ、飲ませてあげるのは駄目なんでしょうか?」田沢君のお母さんは、自分のことのように哀しい顔をした。

「良いのかもしれないんですけど、ハッキリ確認を取っていなかったので、今日は我慢します。万が一があったら困りますから」

「姉さんも、忘れずに聞いておけばよかったのに……」有紀が、軽く咎めるような言い方をした。

「じゃあ、今日のところはミルクで我慢しないとね。たしかに、安全を確認してからの方が安心。それに、ゆきちゃんは、ミルクも大好きですからね、大丈夫ですよ」田沢君のお母さんは、話題を変えようと、彼女なりの工夫で、その場をつくろった。

「えぇ、いずれ、厭になるくらい飲ませてあげますから」私も、授乳の話題を打ち切るように、笑顔を浮かべた。

「それで、今後のスケジュールのようなものは、予定されているのですか?」

「えぇ、あと、ひと月半くらいは、体力の回復にあてるよう、言われています。自分が考えている以上に、筋肉が落ちているようで、すぐ、横になりたくなったりするんです」

「私も、私なりに、お姉さんのスケジュールを想像してみたんですよ。すこし、父の知恵も借りましたけど。父は、治癒しても、免疫の回復や体力の回復に、二か月は最低必要だって力説していました」

「そうでしたか、何からかにまでご心配かけてしまいまして……」

「いえ、私自身の為にも、お姉さんのスケジュールを想像する必要性みたいなものがあったんです。いつまで“ゆきちゃん”と一緒にいられるのかな。居なくなるまでに、私の心づもりもチャンとしておかないと。そんな風に思っていましたから……」

「あの、田沢さんのご想像でいくと、姉の静養が終われば、“ゆき”は、田沢さんの手を完全に離れると云う結論なわけですか?」有紀が聞いた。

「えぇ、お母さんが元気になったら、自然、そうなりますから……」

「実は、田沢さん。私たち、その点のことも含めて、ご相談したいと思っていたんです。これから、二カ月くらい経ったら、姉は復職します。でも、姉が復職することは、働いている日中は、誰が、“ゆき”の面倒を見てくれるのだろうか。そんな当然の心配を、すっかり忘れてスケジュール描いていたんですよ。だから、姉の復職後の育児の部分が、ぽっかり抜け落ちていたんです。田沢さんから見たら、一番肝心な問題だったんですけど……」

「お姉さんの勤務中の“ゆきちゃん”の育児と云う心配ですね。でしたら、私で良ければ、引き続き見られますよ。送迎のバスはありませんけど」

田沢君のお母さんは、明るい表情で、有紀の悩みに反応した。

「でも、それでは、余りにも、ご親切に甘え過ぎていますから……」私は、視界が開ける歓びを抑えて、大人の対応を繕った。

「もし、田沢さんが、ご迷惑でなかったら、原則、平日の育児を願いできたらと……」有紀は、ここが正念場のような顔つきで、グイグイと交渉に当たった。

「勿論、問題なんてありません。私の方からも、そのお仕事、申し出たいくらいでしたから。主人も、そんなこともあるだろうけど、引き続き育児の仕事買って出た方が良いんじゃないのか、そんな冗談を言っていたくらいですから……」
つづく

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終着駅460


第460章

ひさびさに、有紀と私は、互いの肉体に愛撫を加える行為を試してみた。試運転のような、そのビアンな行為は、互いの心のあり様をたしかめる程度で充分だった。

それ以上を求めて挫折することを避けるように、二人は、わずかな快感の記憶を呼び戻す程度で、眠りに就いた。

私は、昼過ぎに目覚めた。夢も見ずに、清々しい目覚めだった。

有紀は、既に起きていた。

リビングに起きがけの身体を運ぶと、“おはよう!”と、ご機嫌な有紀の笑顔が迎えてくれた。

「買い物してくれたんだ」私は、ダイニングテーブルに無造作に置かれた、三つのビニール袋を目にしていた。

「これだけあれば、一週間くらいは困らない筈だから」

「そうよね。二週間くらい食いつなげる量だと思うよ。後で、お買い物、清算してね」

「いいよ、大した額じゃないから。それよりも、今日は、色んなことの確認作業しようよ。この流れだと、このまま、姉さんとの共同生活が始まりそうだしね。このマンションで、三人の生活をするにあたってみたいな事も含めてね」

「あれっ、今日は劇団の方、大丈夫なの?」

「お休みよ。この間の箱根で、人間には、休みって必要なんだと、実感したの。
あの後、シナリオの方の仕事、凄くはかどってのね。色んな発想も、次から次と湧いてきて、一瞬、天才かと思うくらい。
そういうことで、今日から三日間は、二人は一緒。田沢君の家に一緒に顔出しした方が良いしさ」

「それ、助かるわ、ありがとう。それに、無事退院出来た以上、“ゆき”の育児問題の目途も立てなきゃならないから……」

「仕事はいつ頃からって思っているの?」

「村井先生は、退屈でも一カ月半は静養に徹して、あらゆる体力の回復にあてることって命令されてるからね。最低、そこだけは守ろうかと……」

「そうなんだ、一カ月半ね。その間、育児するのって大変だよね。いや、そもそも会社に復帰して、昼間、“ゆき”の面倒を誰が見るかもあるよね」

「そう、まさか、会社に子連れで行くわけにもいかないから……」

「リアルに、切実になってきたね」

「そう、先ずは保育園探しが、当面の課題」

「前に、姉さんの会社、企業内保育園つくるとか、そんなこと言ってなかった?」

「あぁ、あれね。社長の映子さんとの睦言の中の話だからね、間に受けて、催促するのもみっともないからね……」

「そうだね。こっちから言い出すのは、チョッとだね。でも、そのことに、気づくかもしれないわけでしょう」

「そうね、復職してからの、私の仕事ぶりや、社長と私との話し合いの成り行き如何かな?」

「なに?その、社長との話し合いの成り行きって?」

私は、社長が、後継者として、私を内々に指名しようとしたと云う話をかいつまんで話した。

「へ~、それって、凄いことじゃないの?」

「凄いと云っても、実績ある後継者ってよりも、竹村の大量の株を相続した人間だから。そう云うニアンスもあるから、ホイホイと乗れる話でもないわけよ」

「なるほどね。姉さんが、その話を飲めば、保育園も出来ちゃうかもね」

「そういうキッカケにはなるだろうけど……、子供を産むよりも、もっと重い課題を抱える立場になるからね……、不用意に承諾は出来ないよ……」

「結構、曖昧な時間帯だね。だったら、あのまま、田沢君のお母さんに、託児所やって貰えば良いんじゃないの?」

「頼めば、引き受けてくれそうだけど、図々しすぎる感じもするしね……」

「大丈夫だと思うよ。田沢君が言うには、子供への関心が減って、妹共々、凄く助かると歓んでいたけどね」

「それは、子供の立場からの感想でしょう。お母さんの立場じゃないもの」

「でも、ご主人も、最近の母さんの作る料理は、一段と美味しくなったって言っているくらいだから、彼女の精神的な充実に貢献しているのかもよ」

有紀とそんな話をしながら、先ずは、子供を預けている、田沢君の家を訪問するのが、一番の仕事と云うことで、明日の訪問を約束した。
つづく

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終着駅459


第459章

「一卵性双生児のテレパシーのようなもの、私たち姉妹でも起きる現象なのかな?」

「どうだろう。以前聞いた話だけど、同じ生活リズムに住んでいる家族は、同じ時間にトイレに行きたくなる、そう云うの聞いたことあるけど、それは、人間の生理のメカニズムから、証明できそうだよね。
でも、同じ課題を抱えて、それに、同じくらい気持ちを向けた場合、考えが重なることは、あるんじゃないの」有紀は、ゆっくりと話した。

「それはあるわね。でも、どこか女子高生の同調心理に近い感じもする」

「あれ、生理が感染するような?」

「まあ、そう云うこともあるし、まだ、情報が足りない子供の場合は、考えることが同じで、答えも同じって、結構あった気がする」

「そう言えば、あの頃は、そうそう、そうでしょうって、同調してたよね。あれは、同調圧力だったのかな?」

「両方あるんじゃないの。まだ、単純な思考経路しか持っていなかったので、答えが同じになる。時には、同調した方が楽と云う、彼女たちなりの知恵。二通り、あるんじゃないの」

「そうなのかもね。でも、きっと私たちは、同じ考えに耽っていても、きっと、違う答えを導き出してしまう。その差は、何だろうね?」

「そうね、きっと違うでしょうね。答えまで同じだと、人間関係は不都合だらけになっちゃうしね……」

「あの時、圭の肉体を共有したように?」

「あれは、どうだったのかな?あれは、アンタの悪戯心が起こした事件じゃないの?」

「悪戯心っていうか、姉さんだけ狡いって、腹が立ったからかな……」

「そう言えば、中学くらいまでは、何でも、私と同じもの買って貰ってたよね」私は、その当時、その行為を疎ましく思っていた。

「自我がなかったのよ。自我が出来てきてからは、パタッと、その欲望はなくなったもの」

「どうして、自我が出来ちゃったの?」

「処女喪失の翌朝から」有紀が、冗談のような、本気のような顔つきで、当時を思い出すような表情を浮かべた。

「なんか、取って着けたような自我誕生の神話だね」

「幾分美化しているけど、タイミングは、その時。それはたしか……」

「初体験が、そんなに印象的だったの?」

「そうね、悪い意味で、印象的だったかな」

「どういうこと?」

「痛みも快感もなかった。先ず、一つ目の印象は、相手の男が馬鹿に見えたこと。二つ目の印象は、これで、姉さんに先んじたって印象……、だったかな?」

「女になれた、そんな風には思わなかったの?」

「うん、思わなかった。姉さんに勝ったぞって感動で幸せだったかな。それからかな、姉さんと私は違うんだって思ったのは……」

「その相手を好きだったわけ?」

「いや、只の友達の友達。成り行きで一回だけ。だから、相手は、私が初体験だったことすら知らない筈」

「ふ~ん。はじめて聞かされたけど、不思議な自我の誕生だね」

「きっと、姉さんの真似ばかりしたがる自分に嫌気をさしていたんだと思うの。
でも、キッカケがなかった。偶然だけど、その経験で、明白に姉さんと私の人格が分離した」

「でも、その時の私が、処女だって保証はなかったのに、決めつけたわけね」

「そう、決めつけね。もしかして、姉さんは処女じゃなかった?」

「大丈夫よ。有紀の自我誕生のエピソードに水を差すような事実はございません」

私は、有紀の指先に指先を絡めた。
つづく

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終着駅458


第458章

「さぁ出来た。卵サンドとハムサンドと野菜サンド。お好きなもの、お姫様、お食べになって……」

「有紀って、料理上手なんだね」私は、心から、そう思った。

「これってさ、料理とは言わないでしょう。これは、出来ている具材を組み合わせただけだもの」

「そうは言うけど、盛りつけ方とか、美味しそうに見えるもの、一種の才能だと思うよ」

「お褒めに預かり光栄です。コンソメのスープを、今持って行くから、食べはじめてよ」

軽く塩味とマスタードが効いていて、食欲をそそった。三口で、トリプルサンドイッチを食べ終わった時、湯気の立ったスープが目の前に出てきた。

「綺麗なスープだね」

私は、スープスプーンを握ったまま、細切りのニンジンとネギ、ピーマンの色合いに見惚れていた。

有紀の造形に対する感覚が目の前にあった。有紀が一流の芸術家であることが、今更のように理解できた。

人間の能力を誰が判定するのか、親たちだろうか、教師だろうか、周りの他者の評価が、どれ程あてにならないかを証明する見本が、目の前にあった。

誰が、手のつけられなかった不良娘に、これだけの才能があることに気づいただろうか?誰ひとりいない。

もしかすると、有紀自身も、自分の才能に気づかずに、突っ走っていただけかもしれない。

それに引き換え、私の生き方は、なんだったのだろう。明らかに、目の前にあったレールの、どれかを選択していただけで、自分が敷いたレールの上を歩いたわけではないのだ。

圭なんかは、典型的に、最上位のレールの上に乗っかっていたのだ。何らの疑問も抱かずに、この世の仕組みを味方に、生きていたアイツが、その有利だった仕組みの一つの罠に嵌り、一番初めに挫折した。

私も、自分の責任ではないが、半分挫折の淵に立たされたのだ。

日本人の多くは「空気」に流され生きていると、名コラムニスト山本七平が言っていたが、その通りであると同時に、その空気が、人を迷い道に引きずり込んでいくいる事実も証明していた。

特に歴史的なパラダイムシフトが起きようとしている今という時代は、既存のレールが、正しいレールだとは言えなくなっていることなのだろう。

“竹村ゆき”には、幾つの選択肢が示されるのだろう。私は、半ば以上意味のない考えに引きずり込まれそうになった。その混迷確実な思いから救ってくれたのは、有紀の一言だった。

「なに深刻な顔しているのよ?」有紀が、意外なほど優雅に、スープを口に運ぶ手をとめ、揶揄う目で質問を投げかけた。

「ああ、意味不明なこと考えていたのよ」

「意味不明なこと。体調とかの問題じゃないのね?」

「違うよ。体調は悪くないから大丈夫。ただ、相当に筋肉が退化しているようだから、暫くはリハビリ的に生活しないとなって、考えてはいるよ」

「それは、意味のある方の考えでしょう。意味不明な方は、どんなこと思っていたの?」

「どう表現したら良いのかな。現時点と云う縦軸で輪切りにすると、有紀の生き方が一番正当な道を歩んでいる。そう云う感じの思いかな?」

「ああ、そう云う感想ね。偶然だけど、私も、姉さんと会えない間に、そんなこと思ったよ。
一番不出来で、親が匙を投げた子供が一番元気でさ。健康優良児で頭脳明晰だった二人、圭は死ぬし、姉さんは白血病でしょう。人間の運不運って、どこで落とす決め手があるのか、どこで、拾う決め手があるのか、そんな事実関係を踏まえて、いま、シナリオ書いているの……」

意外な一致に、私は、会話を続ける言葉を探していた。
つづく

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終着駅457


第457章

「姉さん、このまま寝た方が良い?」

有紀は、私が脱ぎ捨てた服をクロゼットに仕舞いこみながら、聞いてきた。

「いま、何時かな?」

「まだ、夜の9時だけど……」

「なんだ、まだ、そんな時間なのか……、起きるよ、少し、お腹も空いてきたから」

「私もお腹が空いてるから、なにか取ろうか、それとも、作る?」

「そうだね、食べに行くのは疲れそうだから……。でも、病み上がりに中華もね……。コンビニのサンドイッチくらいにしておこうかな?」

「そんなもので良いのなら、作るよ」

「だって、材料買いに行くんだから、出来合いで充分じゃない?」

「大丈夫、材料は、しこたま仕入れてあるんだよ」有紀は、手柄を挙げたような言いっぷりで、そそくさとベッドルームを出ていった。

二時間以上、横になっていた所為か、疲労感は消えていた。やはり、筋肉の衰えはかなりのもののようだった。

この調子だと、内臓も弱っている可能性があるのだから、食べるものや量にも、気をつけなければならなさそうだった。

脱毛してしまった頭髪は、既に3センチほどに生え揃ってきていた。

部屋に入ると直ぐに、ウィッグは取り払ったので、気のせいか、頭が寒かった。

そういえば、人毛のウィッグは病院出入り業者がオーダーメイドで作ってくれたものだったが、あの代金はどうなっているのだろう。

退院時、有紀が支払っていた400万円近い支払いの中に入っていたのだろうか。

それにしても、有紀は、退院時の費用を500万円くらいに見積もった根拠はなんだったのだろうか。

「有紀、さっき、入院費の清算してくれたけど、あのお金、建てかえてくれたの?」

「そうよ。例の金塊を売ったお金から、払っておいたの」

「そうか、そう言えば、金塊があったんだっけ。でも、よく500万円くらいって判ったね」

「あぁ、あれね、田沢君のお母さんが見積積算してくれて、メールで知らせてくれたの」

「田沢君のお母さんが?」

「そう、彼女、昔、医療事務していたんだって。後で判ったんだけど、彼女の実家、病院なんだってさ」

「へー、そうだったんだ。お父さんが、お医者ってこと?」

「それがさ、聞いてビックリだけど、お母さんが医者なんだって」

「へー、それも想像外だね」

「そう、現実の世界にも、色んなイメージと違うことがあるんだなって、つくづく思ったよ」

「そうなんだ、彼女の態度には、そんなエリート臭、全然しなかったのに、よほど人格が出来ているんだね」

「私も、そう思った。ああいう人が、この世に居るなんて、不思議な感じだけど、現に我々の目の前にいるし、“ゆき”の面倒を、痒い所に手が届く感じで見てくれているんだから。間違いなく、存在するのよ」
つづく

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終着駅456


第456章

退院後、1週間くらいは、湯船を使うのは我慢して、シャワーだけにしておくように、と注意を受けていた。

聞いた時は、どうして?と思ったが、上半身を起こしているだけなのに、疲労感があった。

「有紀、少しベッドで横になってくるから……」

私は、返事を待たずに、ベッドルームに向かった。リビング同様の形状の空気清浄機が作動していた。たしかに、ベッドルームも無臭だった。眼で確認は出来ないのだが、埃なども、いつもの状態に比べれば、少なくなっている感じだった。

ベッドカバーが変っていた。以前、何度か買い替えようと思いながら横着をしていたものだが、そのことを、有紀に話したかどうか覚えていなかった。

そのことを、有紀に尋ねるよりも、横になることを、身体が要求していた。

疲労感があるだけで、特に、どこがどうという症状はなかった。4カ月以上、ベッドで横になっていたのだから、おそらく筋力がなくなっているのだろう。

筋力だけではなく、内臓も含めた肉体全体が、虚弱になっていると実感できた。

“湯船に浸かるのは1週間後くらいに”と村井先生が言った言葉に納得した。

着ているものを、脱ぎ捨て、枕元に用意されていた、ジャージを着こんで、ベッドに潜る込んだ。

寝てみて気づいたのだが、寝具一式が新品になっていた。ベッドそのものは同じだったが、マットも新しいものになっていた。

“有紀って、もう……”と思いながら、その新しい寝具の中に身を潜り込ませ、眼を閉じた。

枕に違和感がなかった。懐かしい、そば殻枕の感触が、私の頭を懐かしく迎え入れてくれた。

枕を変えなかった、有紀の細心の心配りに脱帽しながら、洗い立ての枕カバーの僅かな香りに包まれ、私は浅い眠りに就いた。

どのくらいの時間眠っていたのか判らなかったが、ベッドルームの空気が動いた。

気配を感じた時点では、夢か現(うつつ)かの区別がつかなかった。

「大丈夫?」誰かの声が聞こえた。私はまだ、夢の中にいた。

布団から出ていた腕が持ちあげられ、布団の中へと誘導されて行った。看護師が見回りをしているのだろうか、幾分、現実に戻りかけていた。

しかし、動いていた空気は、再び静寂を取り戻し、私は、再度眠りに就いていた。

なぜか、櫻井先生が骨髄から髄液を採取するのだと言って、うつ伏せになっている私のお尻を挟むように跨っていた。

……あぁ先生、そこは脊髄じゃありませんけど……

私の必死の抗議は、声になっていなかった。

……そこは、ア×ルです。もう少し、下の方です……。あぁ、そうじゃなくて、おまたの間には脊髄はないんですけど……。もっと、ずっと上なんですけど……。

私の無言の抗議は、櫻井先生には届いていなかった。だからと言って、櫻井先生は、股の間に執着することもなく、本来の脊髄の辺りに指を這わせていた。

「姉さん!」私は、有紀に揺さぶられ、目を覚ました。
つづく

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プロフィール

鮎川かりん

Author:鮎川かりん
小説家志望、28歳の女子です。現在は都内でOLしています。出来ることなら、34歳までに小説家になりたい!可能性が目茶少ないの分ってっているのですけど、挑戦してみます。もう、社内では、プチお局と呼ばれていますけど…。売れっ子作家になりたい(笑)半分冗談、半分本気です。
初めての官能小説への挑戦ですけど、頑張ってみます。是非応援よろしくお願いします。

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