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終着駅88 ゴムの長手袋の腕が股間に伸び


第88章

「よし、こうなったら最後まで見てやろうじゃないか」圭は、缶ビールを握りつぶすと、ごみ箱方向に投げ捨て、リモコンを再度手にした。

真っ黒の画面に何度か稲妻のような模様が瞬間的に浮かび上がった
その稲妻らしき白い光が、意図的なものか、技術的ミスなのか、判断はつかなかった。

そうして、次のシーンが映し出された。今度のシーンでは、シーツが大きく捲られ、乳房が露わにされていた。ゴムの長手袋の腕は股間に伸びたままだったが、黒いラテックスか何かのマスクを被った人間の肩や背中、頭部が映し出された。

カメラのアングルが映し出されている角度から考えてみると、最低でも二台以上の角度から、その映像は作られているようだった。その別々のカメラの映像を、細切れのように作り込む執拗さが作り手の粘着力のある資質を表しているようだった。

その人間は装いに反して、意外にも正常な性的行為の手順を踏んでいた。左のゴム手袋の腕で、乳房を入念に愛撫し、ラテックスの覆面から露出している唇で、乳首に舌を這わせていた。

無声音の画像で、このような行為を見ているというのは、奇妙な感覚だった。どこか遠い所で、非現実的なことが起きている。絵空事を見ている感覚なのだけど、ラテックスとゴムに包まれた人間が、嬲っている女体は、まさに美絵さんだと云うのだから、どうも心が定まらず、浮き足立った気分に陥っていた。

ゴムとラテックスの人間の動きが激しくなってきた。美絵さんらしき女体の動きも激しくなってきた。何かを求めるような感じで、女の両手がゴムとラテックスの背中に回された。

あきらかに、女体は感応しているようだった。ゴム手袋に支配されている下半身は、膝を立てて、何かを求めるように蠢いた。

女体が美絵さんだと、圭は確信していたが、私には美絵さんだと確信は出来なかった。女の人の顔の部分には強くボカシが入っていて、まったく判別不可能だった。

「入念に作業しているね」私は思わず口にした。

「アドビのアフターエフェクツだな…」

「技術力もあるってこと?」

「まあね。それに、俺、この男を知っているよ」

「このゴム男が判るの?」

「判る…」

「そうなんだ、知り合いってことね」

「そう、美絵の昔の恋人」

 ゴムもラテックスも役に立たないのに、どうして、こんな窮屈なものつけて、男は頑張るのか判らないと思ったが、口には出さなかった。

画面がまた黒くなり、次のシーンが映し出された。次の画面で男は、ゴムもラテックスも脱ぎ去っていた。

ただ美絵さんだと云う女性も、その男の顔もモザイクが施され、少なくとも私には、この男女を特定することは出来なかった。
つづく


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終着駅87 美絵だよ…圭が呟いた。


第87章

「美絵だよ…」圭がひと言呟いた。

「そう、美絵さんなのね」私も、感情を押し殺して、圭の言葉に反応した。

すべてが止まった時間が続いた。どのような感情や思いや考えが、圭の体内を巡っているのか、私には判らなかった。ただ、今は、そういう時間が必要なのだろうと感じていた。

私に、今できることはなかった。出来ることは、圭の近くにいてやることだけだが、それで良いのだろう。こういう時に、言葉と云うものは、ほとんど役に立たない。いや、逆に物事を悪い方向に向けてしまう方が多いのだろう。

「俺、ビール飲むけど、姉さんどうする」圭が、動画のことを忘れたように立ち上がった。

「ビール?車で来たのよ、大丈夫?」

「大丈夫、そんなに飲まないし、まだ帰りたくないしさ」

「それなら良いけど、じゃあ私も一杯くらい飲もうかな」

「姉さん、遅くなっても大丈夫?」

「私は大丈夫だけど、アンタの方こそ、大丈夫なの。藍ちゃんは、どうしているの」

「美絵の実家で預かってくれているよ。ママは病気で病院にいることになっている。遺体が戻ってきたら、死んだって話をするしかないんだけど…」

「そう云う難題があったね。そうか、話すの辛いね」

「うん。そう思ったのかどうか判らないけど、あっちのお母さんが、それは私の役目だから、アンタは、あまり説明しないようにって言ってくれたんだよ」

「そう、それで済めば良いけどね。なんか、藍ちゃんのこと考えると、ため息が出ちゃうね」

「そう、死んでしまった美絵のことを考えて苦しいときは、いま目の前で生きている藍のことを考えるようにしていた。それなのに、皮肉だよな、こんなものが送られてくるなんて」

「この動画って、どういう意味があるのかしら?」

「うん、考えてみたのだけど、この送り主と云うか、撮影した奴は、美絵の自殺を知らないんだと思う。だから…」

「そうよね、美絵さんの事を知っている人って限られているものね」

「そう、身内以外はだれも知らない…」

「そう云うことか。それで、その誰かが、美絵さんがメールに返事も寄こさないので、腹立ちまぎれに…」

「嫌がらせをしてきたって考えることは出来る…」

「つまり、美絵さんに対して、俺は本気だぞっていうメッセージを出したわけか…」

「もし、恐喝だったら、次に、このビデオを流されたくなかったら、金を出せってのが普通だけど…それなら、美絵に送りつけるのが筋なんだよな…そこんところが判んない…」

「あのさ、あの日の夜、有紀が止まりにきて、話したのよ」

「そうだったのか。それで、有紀ねえさんが、お得意の推理力を働かせたわけだね」

「そうそう、私も頑張ったけどね」

「それで、このような流れも想定されていたの?」

「盗撮でもされたんじゃないのかって推理まではいったわ。でも、それ以上はグタグタな推理で、推理って程じゃなかった…」

「いずれにしても、俺に送りつけて来たっていうことは、関係があからさまになっても構わないって事だよね。だったら、これは恐喝ではないことになる」

「そうね、アンタ達の家庭が崩壊することを意識しているとも言えるね」

「そうなんだよ。この撮影者は、金が目的ではないってことだよ」

再び、沈黙の時間が流れた。

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終着駅86 女体の陰核はむき出しになり


第86章

動きの少なくなった女体のバギナに向かって、突然、腕が伸びてきた。武骨い腕を連想したが、その腕には長めのゴム手袋が嵌められていて、実際はどんな腕で、どんな指なのか、確認は難しかった。

外科医がつける手術用の手袋より厚手で、肘までスッポリ入る手袋の動きは、酷く凶暴な雰囲気を醸し出していた。

その凶暴な見た目とは裏腹に、粘着性のある、執拗な動きは執着的で、偏執狂の仕業を連想させた。

左の中指と薬指に挟まれた女体の陰核はむき出しになり、右手の指先は、痛いと思われるほど激しく、その露出部を摩擦していた。

女体の主は、気絶でもしてしまったのではないかと思うほど、無反応に見えた。先ほど、足の指を反らして悦びを表しているのとは、全然違う無機質な感じの横たわる姿だった。

その無反応に腹でも立てたのだろうか、ゴムの手は、乱暴にバギナに挿し込まれ、強引に何かを引き起こさせようとしているような動きに出た。

アダルトビデオがよくやっている潮吹きをさせようとしている動きにそっくりだった。性的偏執狂な動きであるにも関わらず、この腕の男?は幼稚な行為にご執心だ。

私は、この男であろう人間は、必ずしも性的知識を豊富に持っている人間ではないと判断した。都市伝説のように、若い世代に蔓延した「潮吹き」現象を信じているのだから、性経験豊富な人物像は浮かばなかった。

私は、横目で圭の様子を窺ったが、その表情を読み取ることは出来なかった。圭に送りつけられてきたCDなのだから、いま映し出されている女体は、美絵さんである可能性が高いのだけど、それを確認する勇気はなかった。

ゴム手袋の動きが、一段と乱暴にバギナを掻きまわし始めた。漸く気がついたのか、女体が、その動きに反応した。女の手が、ゴム手袋の指の動きを停めようとシーツの上から伸びてきた。

しかし、ゴム手袋の手は邪険に、その女の手を払いのけ、一層過激にバギナに挿し込んでいる指を左右に揺さぶるように動かした。

まるで拷問のような仕打ちなのだが、ゴム手袋は、女体が失禁しない限り、その動きを止めるつもりはないようだった。

「出しちゃいなよ!」私は、思わず叫んだ。怒りが込み上げてきた。オシッコでも、ウンチでも構わないから、全部排泄できるものは出してしまえ。私は、怒りを通り越し、憤怒に満たされていた。

とうとう女体が悲鳴を上げ、失禁した。女体の股間から、堰き止められていた尿が、飛沫を伴って飛び散った。

そうして、再び画面は黒くなった。

その時、圭が、テーブルに置かれていたリモコンを取り上げ、電源を切った。

私も同じような気持ちだったので、特になんのアクションも取らずに、ただジッと暗くなった儘の液晶画面を眺めていた。

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終着駅85 輝きを伴って滑っているバギナ


第85章

映像が流れだした。私は、知らないうちに肩に力が入っていた。誰かの手でも握っていたい気分だったが、まさか、圭の手を握るほど無神経でもなかった。

9,8,7…1と気を持たせたカウントダウンが腹立たしかった。そして、前触れもなく、白いシーツで上半身を覆った女の下半身が映し出された。徐々にズームアップされた映像は、その女のバギナに向かって、レンズが突進しているような迫力があった。

上半身に掛けられている白いシーツが盛り上がり、顔も隠れている下半身、いや、バギナの全貌の映像が、静止画のように執拗に映し出されていた。

私は、その映像から、その女性が誰なのか見極めることは出来なかった。圭には判別できるのかどうか、聞いてみたい衝動もあったが、唾を飲み込み無言で、画面に見入った。

静止画のように映し出された映像だが、シーツの腹部辺りに、僅かな動きが確認できた。粘着力の強い映像は、一瞬黒の画面で切り替わりを暗示し、新たなカメラアングルの映像が画面一杯に広がった。

左足の指に執着した映像が流れた。ただ、その足の指の動きは、寝ている時や平常時の指の動きではなかった。何度となく、間欠的に反る動きは、その足の持ち主が、快感を憶えている時に見せる動きだった。

男の身体が映像に入っていないので、何度かオーガズムを感じた後に、嬲られることで目覚めた快感を表現している、足の指の動きだった。

おそらく、この女の人は、乳首を弄ばれているか、或いは、直にバギナを弄ばれているなど、充分なオーガズムを得た後の愛撫で、更なる快感を得ている女の動きだった。

私は、そこまでたどり着いて初めて、見ている動画が無声音なことに気づいた。声のない映像が、逆にこんなに、見ている者の想像を掻き立てるとは思いもよらなかったが、酷く神秘的で、猥褻でもあった。

助平になった女体を弄り回せるのは、その女体にオーガズムを与えた人間の特権であるかのように、執拗に、その女体に向かって、特権を得た人間は、サディスティックと思えるほど、長時間に亘って、女体に追い打ちを掛けているように見えた。

また、画面が黒くなり、次のシーンが現れた。再び、ズームインしたカメラが、キラキラと輝きを伴って滑っているバギナを映し出した。

女体の下腹部が大きく波を打っていた。先ほどよりもシーツが捲られ、下腹部もカメラに晒されていた。

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終着駅84 リベンジポルノが結構話題になる時代


第84章

食欲はないけど、何かは口に入れないと、と云うことで大判のピザとサラダを注文した。

「ピザが届いてから話した方が良いよね。私、お風呂入ってくるね」私は、圭の返事を待たずにバスルームに向かった。特別、風呂を使う必要はなかったけど、二人の間に流れる重苦しい空気を一掃したかった。

バスタブにお湯を張りながらシャワーを浴びた。性的な営みがないと分かっていながら入るラブホテルのバスタブは、無闇に大きく冷たいものだった。

やはり、ラブホテルはセックスをするための場所だと云うことなのだろうが、必ずしも最近は、そういう場として使われているとは限らないという記事を思い出した。

カラオケセットは当たり前で、オンデマンドで映画も鑑賞可能だし、アルコール類も豊富だ。所によっては天然湯使用の露天風呂まであるようだった。単に、くつろげる空間としてラブホテルが機能しているのかもしれなかった。

おそらく、圭の持ってきた、厄介なCDを、こけおどしのように居座る大画面の液晶に写りだされるのかと思うと、その時の反応をどのようなものにすべきか、考えずにはいられなかった。

有紀との連想ゲームのお陰で、何も判らない心境ではなかったので、圭よりは、冷静に画面を見ることが出来る気もした。きっと、圭も性格から考えると、酷く取り乱す心配はないのだけど、見終わった後で、どのようなアクションが相応しいのか、纏まりなく考えていた。

圭がピザが届いたと伝えにきた。私は、圭に「アンタも湯船に浸かって、少しはリラックスしなよ」と、下着をつけ、バスローブに腕を通しながら、声を掛けた。

入れ代わりに圭が、バスルームに消え、私は、ピザを頬張った。既に、CDはセットされているらしく、プチプチの封筒は空だった。

ふた切れで満腹感を憶えた私は、何気にテレビのスイッチを入れた。猛烈な音量が私に襲いかかった。よく見ると音量が28を示していた。今にも鼓膜が破れるような錯覚に襲われながら、12まで落とした。

NHKのローカルニュースのテロップが私の目に飛び込んできた。”動画撮影で恐喝”。私は声を出すところだったが、現実には声もなく、そのニュースにくぎ付けになっていた。

目の前で報じているニュースは、美絵さんの件とは一切関わりのない事件だったが、そういう事が世間では意外に多くあるのかもしれなかった。そういえば、リベンジポルノが結構話題になる時代背景がある事に思い至った。

愛し合い、信頼の情の頂点にある男女にとって、現代のITとデジタル機器は、手っ取り早い記録である。昔は二人の愛の情景を、アナクロに手紙やポラロイドカメラでおさめる閉鎖空間と云う境界線があったのだが、時代は、その歯止めの不便さを取り払ってしまったようだ。

メールのやり取りにしても、恋人や愛人同士では、睦言と言われる語彙が行き交う。現実には、手紙と違って、調べようと思えば、その記録は第三者に丸裸にされるわけで、デジタルと云うものは、限りなく怖いものだった。

ただ、人の感覚と云うものは不思議で、デジタルの世界は匿名性の世界だと勘違いするから、手紙なんかより秘密が守られているように錯覚する。その場その場で消えていく存在のように思うのだけれど、永遠に記録は残るし、リベンジポルノなどは、際限なく拡散してしまう事を人々は感じない。

既に、目の前にセットされているCDの中身にしても、一旦流出してしまえば、ネットの世界がある限り永遠不滅に世界中を巡り続ける。私は、そんなことを考えながら、食欲を失っていった。

圭がバスルームから出てきて、ピザを頬張りながら、リモコンを作動させた。レコーダーの箱の中で、カタコトと恐怖のはじまりを知らせていた。

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終着駅83 美絵が映った動画だった…


第83章

“ソバ湯ください!”と、私はかなり大きな声を出していた。押し黙った感情がプツンと切れ、知らずに声が大きくなってしまったようだ。私は、今さら言い訳のしようもない気恥ずかしさを感じながら、蕎麦湯を飲み、喉につかえた違和感を飲み込んだ。

その時、また携帯が鳴りだした。“母さんもしつこいな”と思いながら画面を見つめたら、圭からだった。

『もしもし、いま店だから、五分後にかけ直すから』私は、携帯に囁くと、残りの蕎麦湯を飲み干して店を出た。あまり、歩きながら携帯を使わない私も、今はかけるべきだと思った。

『あっ私、さっきはゴメンね。美絵さんが返ってきたの?』

『それはまだ。たださ、妙な事が起きたんだよ、姉さん直ぐには会えないよね』

『すぐは無理だけど、定時に退社は出来るわ。5時半ジャストには出られるけど』

『そう、だったらさ、会社の近くまで車で迎えに行くよ。どの辺で待てば良いかな』

『だったら、明治通りじゃなく、新宿通りの方で待ってて。ハッキリした位置は、後でメールに入れておいてよ。45分にはつけるから』

私は、妙なことが何なのか聞きたい気持ちと、聞きたくない気持ちが交錯していた。少なくとも、素敵な話ではないのだから、知るのは、少しでも後の方が良いという気分だった。

予定通り定時で退社した私は、ハザードランプを点けている圭の車に乗り込んだ。

「勝手言っちゃってすみません。ただ、あまりにもショックなので、姉さんにも一緒にみて貰いたくて」

「どういうこと?」

「これ…」圭はプチプチ付の封筒を手渡してきた。

「なにこれ、CDかなんか入っているの?」

「そう、今朝届いたんだよ。チョッと見たんだけど、じっくりは見られなかった」

「それで、私にも見て欲しいってこと?」

「いや、姉さんには関係ない問題なんだけど、ただ、一緒にいて欲しいって思ったんだよ」

「少しは見たわけね」

「うん、ほんの少しだけ。美絵が映った動画だった…」圭は言葉少なく、動画の性質を伝えようとしていた。

「そう、じゃあ一緒に見てあげるよ。どうする?私の部屋に行く?」

「いや、やめておいた方がよさそうだよ。変な意味抜きに、ラブホに入って良いかな?」

「良いよ。たしかに、今は慎重に行動すべきだろうからね。だったらさ、新宿とかじゃないほうが良いんじゃないの」

「そうだね、府中辺りのホテルの方が危なくないかもね」

そうして、圭と私は、有紀と初めて三人の関係を結んだホテルの一室に落ち着いた。

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終着駅82 美絵さんが男を殺してしまう方が…


第82章

たしかに、美絵さんが、相手の男を殺してしまった方が、余程すっきりしたストーリーだった。我々の推理力が生みだしたシナリオでは、美絵さんが、男を殺してしまう方が、全員を納得させるものだった。

殺人罪で起訴されるだろうが、実刑を受けるかどうかギリギリの判決になる可能性さえあったのに、彼女は自分の死を選んだ。そのような選択をしたことで、圭にも悩みを残したし、私たちにも悩みを残した。ある意味で、実の母にも悩みを残して、彼女は消えた。

仮に、私たちの妄想が、事実の一部と重なっていた場合、美絵さんの自殺と云う選択は、私たち兄弟姉妹に贖罪を置き土産にした。その行為が、彼女の意図でなされたのか、その辺は永遠に判らないのだろう。

「私たち、仮説で盛り上がっちゃったけど、真実は判るのかな?たとえばさ、美絵さんの携帯も持って行ったらしいから、送信履歴とかから、脅迫の事実が判るんじゃないのかな?」有紀は、なみなみとグラスを満たしていたワインを半分ほど飲むと、煙草同様に否応なく、私に押しつけてきた。

「そうね、ここから先は、その時次第だよね。圭からの連絡を待つしかなさそうだわ。ワイン、まだ飲むの?」私は飲みたくもないグラスを有紀の目の前で振ってみせた。

「もういらない。姉さん要らないなら、サイドの上にでも置いておいてよ。私、もうダメ、寝るからね」有紀は、宣言するやいなや、私の返事を待たずに眠りに落ちた。

なんて勝手な妹だと思ったが、これが有紀と云う女の特長なのだから、今さら、文句を言っても始まらなかった。ある意味で、これ以上の推理の連鎖は意味をなさない区切りにもなった。

朝になると、有紀は、いつものように珈琲を飲むと、そそくさと部屋を出ていった。私は、ベッドの中で、その物音を聞きながら、ウトウトしていた。また3時間も寝ないで有紀は過密なスケジュールの中に飛び込んでいくのだろう。

テーブルに置手紙があった。『なにか進展や変化があったら、メールで知らせてください。ここしばらくは、東京周辺での仕事だけだから、いつでも夜中なら顔出せるから。有紀』

有紀も奇妙な言動のある女だけど、芯の部分では真っ当な神経が働いていることに安堵しながら、自分は真っ当なのだろうかと、逆に不安を憶えてが、敢えて考えることを放棄して洗面所に向かった。

会社に少し早目に出社すると、映子が既にコーヒーやお茶サーバーの準備をしていた。

「おはよう。昨日はごめんなさいね」

「あら、良いんですか出社して来て」

「検視とかになったので、通夜も何も予定が立たないのよ。あらためて忌引き休暇を出すけど、その時は宜しくね」

「そうなんですか。簡単に自殺として処理されないものなんですね」

「ケースバイケースだろうけど、若いし、病気があったわけじゃないから、警察も慎重なんじゃないのかな」

「そういうものですか。それにしてもご愁傷様です」映子が堅苦しい顔つきで、定番の挨拶をした。私も、色々お騒がせして…ゴニョゴニョとくぐもって挨拶を返した。その日は、午前中いっぱい、ご愁傷様への返礼と、前日のケアーに費やされた。

漸く一仕事から解放されたのは午後二時を回っていた。私は遅めの昼食をとるからと告げて社を出た。あまり食欲がなかったので、お蕎麦屋さんに入って、ざる蕎麦を注文した。

お蕎麦をあらかた食べ終えた時、携帯が鳴りだした。

「どうして、直ぐ知らせてくれなかったのよ」携帯を耳に当てると、早速母の怒りのシャワーが耳元に届いた。

「すぐ後から電話するから、チョッと待ってて」私は、兎に角電話を切った。

すっかり実家の両親のことを忘れていた。一瞬拙かったと思ったが、直ぐに立ち直った。どうして私に連絡の義務があるわけ?その訃報を知らせるのは圭でしょう?どうして私が、母から怒鳴られなければいけないの?

私は、理不尽な電話は母の方がお門違いをしていると結論づけて、再び食事に集中した。もう二口しか残っていない蕎麦が中々喉を通らなかった。母のことはどうでも良いのだけど、圭がどうしているのか気になった。

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終着駅81 そんな程度で自殺なんてするかな?


第81章

「そういうこと。そうそう、それよ」有紀はパズルが解けた瞬間のように目を輝かせ、私に抱きついてきた。

「馬鹿ね、変な気になっちゃうでしょう。離れて、私逆上せるから出るよ」私は邪険に有紀の腕をほどき、バスタブから逃れた。

しばらくして、有紀もワイングラスと灰皿を持って、ベッドの端に腰を下ろした。

「でもさ、そんな程度で自殺なんてするかな?私なら、まな板の鯉って気分になっちゃうけど…」有紀は、私に吸いかけの煙草を渡して、ワイングラスに口をつけた。

私は、その煙草を何の抵抗もなく吸いながら、私ならどうするだろうかと考えた。

「そうね、私も自殺はしないけど、会社は辞めるかもね。日々第三者の奇異な目に晒されるのは嫌だから」

「私の場合は、いつも第三者の目に晒されるのが職業だから、それ程、抵抗はないかな。ただ、芸能関係のプロダクションは嫌がるだろうね。でも、そうなったら芸能の方の活動やめちゃえば良いわけだし…」

「そう云う考え方で行くと、美絵さんは、日々第三者の奇異の目に晒される苦痛はないわけでしょう。しらばっくれていれば済むことかもしれないのに。場合によっては、整形しちゃう手だってあるのに…」

「だよね。てことは、美絵さんは見込み発車してしまったことになるよね」

「それは違うんじゃないの。彼女にとって、浮気の真似事したのも、圭への愛の変形でしょう。つまり、圭が、そのビデオを見て、どう思うかが、最重要課題だったのよ。その意味では、相手の男を殺して、事前にビデオを回収するか、それとも、自分が恥を掻かずに消えてしまうか、どちらかと云う選択に煮詰まってしまったのだと思うな」私は、そう云う事を口にしながら、美絵の圭への愛の深さを思い知った。

「愛しすぎた悲劇か…」有紀が呟いた。

「そうね、愛情の深さが、逆に取り返しのつかない結果に結びついた。悲劇だよね、その悲劇の発端に、私もいたわけだ。そういう意味では、罪作りなことをしていたってことね」

「それなら、私も罪人の一人だよ。圭も姉さんも、私も罪を犯したことになるね」

「でも、美絵さんに対して、私たちは、ワンクッション置いた関係だから、彼女の死に、直接的には関係していないのよ。圭も、より直接的であったとしても、まさに直接的だとは言えない。やはり、もろに直接的だったのは、その脅迫していた男でしょう」私は、業務上の逆境から抜け出すような理屈を振り回した。

「美絵さん、そいつを殺しちゃえば良かったのに…」有紀は飲み足りないらしく、グラスを持ってベッドを離れた。
つづく

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終着駅80 


第80章

「バカバカしい妄想よ」私は、有紀に笑われそうな妄想を思い出して、苦笑いした。

「短絡的想像が一番あり得るのよ。話してみて」有紀が、私の妄想を話せと催促した。

「いえね、美絵さんが家に押し込んできた強姦魔に暴行され、その一部始終を動画に撮られていたのかしらって頭に浮かんだのよ。でも、それって、出来の悪いエロビデオのような話なので、すぐ打ち消したわ」

「そうか、それだよ!いいこと、流れは相当違うけど、浮気の相手との情事の様子が、盗撮されていたのよ」

「美絵さんが、浮気していたかどうかも判らないのに、そこまで想像するのは、チョッと飛躍じゃないの」

「いいのよ。私たちは刑事でも検事でもないのだから、証拠なんていらないの。美絵さんに起こったかもしれない事件を想像して、彼女の死に納得できればいいわけでしょう。少なくとも、現時点では自殺を疑う状況なんてないんだから」

「そうね、考えてみると、私たちが考えていることは、美絵さんが、なぜ死んだかであって、犯人が誰かって問題じゃないものね」

「そう、圭の姉たちとして、奥さんだった美絵さんの自殺の原因を想像しているだけよ。でも、そうしている事で、美絵さんの自殺の衝撃が、なんとなくワンクッション加わることで、冷静に受けとめられるように思うからだと思うの」

「なるほど、心理的には、そういう事を私たちはしているわけね」

「だと思うよ。だって、彼女は自殺したんだから、犯人なんていないわけでしょう。自殺の原因になる、或る出来事はあったかもしれないけど、その出来事が犯人なんて主張も出来ないんだし…」

有紀の頭は、私より断然冷静だった。美絵さんの自殺の原因が何であるか考えているのは、自分たちの心を落ち着かせるためのもので、特に正義感とか、探偵根性から生まれていることではなかった。突き詰めれば、気休めのようなものだった。

ただ、気休めと云うと不謹慎なわけで、一種の弔いの一形態に過ぎないのかもしれなかった。

「ねえ、お風呂入って、また話の続きしようよ」私はバスタブのお湯が冷めきっているのを思い出し、立ち上がった。

流石の有紀も性欲がないらしく、迫ってくる雰囲気はなかった。無論、私もなかった。

バスルームの中でも、美絵さんの話題に終始していた。やはり、身近な人間が死んでしまう、それも自殺となると、一歩離れている筈の我々も巻き込まれずに済むことはなかった。

「だってさ、盗撮でもされて脅かされていたんじゃないと、彼女の“辛さ”を説明できないんじゃないの」有紀は、盗撮説に拘っていた。

「でも普通、盗撮をネタに脅すって、金銭を要求するんじゃないの?」

「そうね、金銭になるのが普通だわ。でも違う要求だってあると思うの」

「たとえば?」

「たとえば、美絵さんが別れようとしたけど、相手が別れたくない。だったら、この動画を旦那に送りつけるとかさ」

「そういうこともあるだろうけど、当面は、時々関係を続ければ済む話じゃないの、別に緊急性があるとは思えないけど…」

「もしかしたら、売春とか強要されたんじゃないのかな?」

「売春を強要されるって、それどういう意味?」

「だからさ、動画を晒されたくなかったら、売春しろとか…」

「まさか幾らなんでも、そんな変な男を選ばないでしょう。彼女が決心するとしたら、圭を裏切っているって実感の湧く相手を選ぶんじゃないの。仮に、面当てで不倫したとしてね」

「そうか、裏切っていると実感できる男と寝る。それ良いね、凄く私好み」有紀は途中から、美絵になり切った感じで推理を愉しんでいた。有紀と美絵さんは違うだろうが、女の怒りの性質みたいなものを知るのには役立ちそうだった。

「馬鹿ね、そんなアグレッシブな気持ちで、彼女は不倫に走ったわけじゃないと思うけど…」

「それはそうかもしれないけど、そんなことさ、選ばれた相手は、気づくわけないじゃん」有紀は乱暴に言い放ったが、その発言は核心に迫っていると思った。

「そうか、旦那への面当てに利用しただけと、美絵さんが、ストーカーの様になりだした男に告げてしまった。それで何となく趣味で隠し撮りをしていたビデオを持ちだし、関係の継続を強要した」
つづく

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終着駅79 不倫には不倫で対抗すると…


第79章

「美絵さんから相談を受けた母親が、自分の体験談を話し始めることは、充分あるでしょう。“貴女、私なんかはね……”って感じでね」

「ふん、あり得そうな流れだね。被害者に同調することから話を始めるのは、良い戦略だわ」

「それで、“私も、お父さんの女癖には、ほとほと参ったものよ。どれ程泣かされてきたか、記憶していられないくらいにね”そんな風に話し始める」

「その話が一段落したら、美絵さんは、母さんは、どうやって、その苦痛を逃れたの、と聞くかもしれないわね」私も、幾分有紀の想像する構図が見えてきた。

「そうでしょう、そう云う流れになるわよね。そうして、美絵さんのお母さんの経験談が語られる」

「そうね、無闇に高価な物を買って憂さ晴らしするとか、お酒に溺れるとか、ホストクラブ通いするとか…」

「そこよ、買い物やお酒に溺れるとかは、その場限りで終わるか、身体を壊すか、その程度のものでしょう。自己完結するから、連想ゲームも終わっちゃう。連想する時は、続きがある出来事じゃないと困るわけね」

「ふ~ん、そうなるとホストクラブになるね」

「なにもホストクラブである必要はないのよ。夜には、貞淑な妻として被害者でいたいわけだから、昼間の行動が最適なわけでしょう」有紀の調子が上がっていた。

「たしかに、被害者の立場を維持して、憂さ晴らしとか、復讐するなら、昼間に限るわね」

「それに、ホストクラブ通いするには、あのお母さんは暗すぎるわよ。あとを引く問題を抱えるとしたら、不倫には不倫で対抗すると云うのは、結構単純に浮かぶ発想だよね」

「不倫ね。あのお母さんが不倫。それと、美絵さんも、それを参考に不倫と云う連想なの?」私は、そこで有紀の連想に異を唱えるように、立ちどまった。

「そうなるけど、単純すぎる?」

「うん、一気呵成過ぎるんじゃない?」

「一気呵成かどうかは別問題よ。単に、自分の母親の憂さ晴らしの体験談を聞かされただけかもしれない。でも、美絵さんの頭の中に、そのような憂さ晴らしと云うか、気を紛らわす方法もあるんだな、とインプットはされるよね」

「そうね、仮にそういう体験談を身近に聞けば、そういう解消法もありなんだなと思うかもね」

「そう、だからと云って、そういう事があったからと云って、現に自分の家庭は崩壊していないし、両親の夫婦仲も特に悪い感じではない。そう美絵さんが思っても不思議はない。そこまでが、私の連想の限界点」

「そうか。実はね、私、全然違う形で、美絵さんの辛さを想像したのよ」

「どういう想像?」
つづく

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プロフィール

鮎川かりん

Author:鮎川かりん
小説家志望、28歳の女子です。現在は都内でOLしています。出来ることなら、34歳までに小説家になりたい!可能性が目茶少ないの分ってっているのですけど、挑戦してみます。もう、社内では、プチお局と呼ばれていますけど…。売れっ子作家になりたい(笑)半分冗談、半分本気です。
初めての官能小説への挑戦ですけど、頑張ってみます。是非応援よろしくお願いします。

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人妻のからだ 』(中編)

終着駅 』(長編連載中)

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